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東京家庭裁判所 昭和49年(家)201号 審判

申立人 中沢きよ子(仮名)

主文

申立人の氏「中沢」を「池田」に変更することを許可する。

理由

申立人は、主文同旨の審判を求め、申立理由として、つぎのとおり述べた。

申立人は、当時一八歳であつた昭和四一年六月池田宏と内縁関係に入り、同棲して共同生活を営み、昭和四三年一月三〇日夫の氏「池田」を称する婚姻届出をし、昭和四五年四月から教員となり、現在都立第四商業高校に勤務中であるが、昭和四八年一二月六日調停離婚し、旧姓の「中沢」に復氏した。右調停離婚に際し、離婚後に申立人が婚姻中の氏「池田」と同一呼称の氏である「池田」に変更することについて、前夫池田宏は異議がない旨述べた。よつて、申立人の氏「中沢」を「池田」に変更することの許可を求める。

各公文書で趣旨方式から職務上真正に作成されたものと認められる戸籍謄本二通(婚姻中および離婚復氏後のもの)、申立人審問の結果、別件離婚の調停事件における池田宏の陳述を総合すると、申立人主張の事実が認められる。

夫の氏を称する婚姻をした妻が、相当の期間婚姻を継続し、その氏を、夫婦の生活共同体を識別するため使用したばかりでなく、妻の社会的な活動の面で使用し、社会的な個人識別の点でもその氏が相当の程度認められ、妻が離婚後においても、その氏と同一呼称による氏の使用を望み、そのことについて夫が特段の異議を述べない場合には、妻は離婚復氏後の氏を、婚姻中と同一の呼称である氏に変更するにつき、戸籍法第一〇七条第一項にいう氏の変更のやむを得ない事由があるものと解するのが相当である。本件において、申立人が池田の氏を称したのは、内縁関係にある期間を含めると七年六ヵ月、婚姻届出後は五年一一ヵ月、教員に就職してからは四年未満(離婚時まで)であり、夫婦共同体識別の関係でも、対社会的な活動による申立人個人の識別の関係でも、それが固定したものとはみられず、復氏後の「中沢」を称しても社会的な混乱はさほど大であるとはいえないが、相当程度その氏による個人識別の作用が認められているといえる。そして、申立人が婚姻中と同一呼称の氏に変更したいものと希望し、それが社会的にみても相当の合理性もあり、また、夫であつた池田宏がその氏の変更につき特段の異議も述べないので、氏変更により不都合な結果が生ずることもないとみられる。したがつて、前記説示の点から、申立人の氏「中沢」を婚姻中と同一呼称の「池田」に変更することの許可を求める本件申立は正当である。

よつて、これを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高木積夫)

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